不動による慢性痛
OfficeKの宮城です。
今回は、不動によって生じる身体の痛みや不調、主に慢性痛について記載させて頂きます。
多く聞かれる症状
- 頸・肩こりが辛い
- 腰が痛い・張る
- 背中が重怠い
- 疲労を感じやすい
例えば、デスクワーカーのような長時間座っていたり、同じ姿勢を取らざるを得ないような生活環境や長期間に渡り、痛みや身体の不調を抱えている方々からこのようなお悩みを多く聞かれます。
身体は約20分〜30分程度の間不動でいると、動作をしている時と比較し身体が硬い状態になるといわれています。不動による身体の硬さが持続することで、頸・肩が凝ったり、背中が張ったり、腰が痛くなったり、身体に不調を伴うリスクが高くなるのです。
例えば不動(座位)から動き出す(立ち上がり)際に痛みを生じやすくなるのです。
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目次
不動による身体の硬さと痛み
・不動とは
https://www.weblio.jp/content/ふどう
- 動かないこと。「ーの姿勢をとる」
- 他の力によって動かされないこと。ゆるぎないこと
一般的にはこのように定められており、医療では、基本的に「外傷後のギプス固定による不動、病気による寝たきりによる不動」などを現します。
ここでの不動は『筋肉や周辺組織が正常な全可動域を通して動いていない。または、動かしきれていない状態。』を指します。
・不動と慢性痛–末梢からの刺激が減弱すると慢性痛になる
怪我によるギプス固定や怪我や病気含め、運動不足による安静などの不活動は拘縮(関節が強固になり可動域制限を呈している状態)や筋萎縮を引き起こし痛覚過敏を誘引するといわれています。また、不活動のように末梢(脳・脊髄以外の部位)からの刺激入力が減弱、変化することによっても神経系に痛覚を感じやすくなる変化を引き起こし、慢性痛を呈するといわれています。
Okamotoらによると、ラット膝関節に起炎剤カラゲニンを注入した関節炎モデルと、損傷・炎症を起こさず6週間屈曲位に固定だけした不活動モデルで、安静時と他動運動時の膝関節一次求心性ニューロンの活動を調べた結果、安静時、運動時ともに、炎症モデルでも不活動モデルでも、その神経活動は著名に亢進した。また、ラットのキャスト固定モデルにおいて、骨折のような組織損傷の有無にかかわらず、固定するだけで、固定肢に痛覚過敏やアロディニア、さらには脊髄後角細胞の分布や機能に変化を生じることが報告されている。
理学療法ハンドブック[改訂第4版]第1巻 理学療法の基礎と評価 編集 細田多穂・柳沢 健
まとめると
怪我の有無に関わらず不活動や末梢からの刺激の減弱によって痛みが誘発される、または、痛みを伴いやすくなる為、慢性的な痛みを緩和させる為に関節や組織に適切な運動と刺激を加えることが求められます。
・筋肉の痛みについて
筋肉の細胞内には痛みを感知する侵害受容器が存在しないといわれていますが、筋肉を包む筋膜と関節に存在する関節包などには侵害受容器が存在しています。一般的にいわれている筋肉痛は、①筋細胞膜の破壊、②過度の筋収縮と血流障害、③関連痛などが考えられます。
(1)筋細胞膜の破壊による筋痛
普段から行わないような運動や身体を使う動作を長時間実施した1〜2日後に筋肉痛を経験されたことがあると思います。これを遅発性筋肉痛といいます。これは過度の筋収縮が繰り返されると筋繊維と筋細胞膜が機械的に損傷することにより炎症症状を呈するからです。
(2)過収縮・血流障害による筋痛
筋肉を持続的に収縮させると、筋肉の血流量が減少し、痛みを発生させる物質のブラジキニンの血中濃度が上昇し、痛みを感知する侵害受容器を興奮させます。また、負荷が弱く侵害受容器を興奮させない程度の筋収縮でも血流が障害されると、ブラジキニン濃度が上昇し筋肉痛を発現させます。さらに、ブラジキニンは痛覚を増強させる物質であるプロスタグランジンの産生を促し、侵害受容器の興奮性をさらに高めるのです。
(3)関連痛による筋痛
筋硬結(いわゆるコリ)は、筋繊維に平行な硬いしこりとして触れられ、筋繊維のごく一部に限局しているのが特徴的で、圧迫するとその局所に痛みが出現します。筋硬結は持続的な筋収縮と循環不全が要因となっています。また、筋を包む結合組織(筋膜)の粘弾性が低下していることが考えられ、筋硬結の圧迫により、結合組織(筋膜)への刺激とともに循環障害がさらに引き起こされ、痛みが再現されます。
筋硬結は可動域制限の一つとして考えられ、無理に可動域を拡大しようとすると筋硬結部位の周辺から痛みが発生します。年齢とともに筋硬結の部位は多くなってきますが、痛みや可動域制限を引き起こす筋硬結部位は限定されており、筋硬結となっている部位を特定し、ストレッチなどを施し柔軟性を高めることにより痛みの感受性を軽減させることが理想的です。
筋硬結の一部は持続的に圧迫すると、その部位の痛みとともに離れた部位にも痛みが発生します。これはトリガーポイントと呼ばれており、その圧迫によって離れた場所に関連痛を招きます。筋硬結は局所的な筋収縮反応を生じており、痛みを感知する受容器や神経に痛み信号が送られます。同時に筋の収縮を促す受容器が興奮し、持続的な収縮・緊張状態から血流障害を呈し慢性的な痛みにつながるのです。
不動による筋肉の痛み(猫背姿勢)から考察
以上の性質を例えば、背中が丸くなったいわゆる猫背姿勢から検討してみます。猫背姿勢は普段から背中の筋肉が伸ばされながら持続的な収縮を余儀なくされつつ姿勢を保持しており、日常的に背中を大きく動かすような場面は少なく不動であることが予想できます。
筋肉は伸ばされながらの収縮(遠心性収縮)にて負荷が高くなりますので、これが持続することにより筋細胞膜の微細損傷を呈します。さらに、炎症反応や持続的な収縮により血流障害、疼痛物質の増加・滞留。そして筋硬結の形成が進んでいくことになります。
・身体の硬さに関わる結合組織は痛みを感知する
不動により身体が硬くなり、痛みが発生してしまう原因を結合組織の性質を中心に展開していきます。
・結合組織とは
結合組織は、引っ張る力に強いコラーゲン(膠原)繊維、弾力性のあるエラスチン(弾性)繊維、網状の結合を担うレチクリンによって構成されており、以下のように分類されます。
結合組織の種類
- 密性結合組織・・・膠原繊維(コラーゲン繊維)を多く含んでおり、規則性をもって配列している。長軸方向の張力に対して強く、柔軟性に乏しい。【腱、靱帯、骨膜】など。
- 疎性結合組織・・・膠原繊維(コラーゲン繊維)やレチクリンが網状に走り各方向に可動性をもつ。【関節包、筋膜、皮下組織】など。
- 定形結合組織・・・膠原繊維(コラーゲン繊維)が網状に多層にわたり推積し、可動性を失ったもの。不動はコラーゲンとレチクリンを緻密な構造として沈着させる。
不動や浮腫、外傷、循環障害によって定形結合組織の形成が促進されると、関節の柔軟性が低下すると言われています。また、コラーゲンを含む結合組織には痛みを感知する神経繊維が存在している為、硬化した組織を動かす際に痛みが発生しやすくなります。
つまり、不動によって関節を包む関節包や筋肉を包む筋膜などが硬くなり、可動性・柔軟性を失ってしまいます。また、結合組織には痛みを感知する受容器が存在します。例えば、ストレッチで身体を伸ばす際に痛みを感じるのは、この性質の為であることが考えられます。
・コラーゲンの機能
①力学的特性
(1)弾性
伸張負荷によって生じた変形が負荷を除去した後にバネのようにもとの形に戻ろうとする性質。
(2)粘弾性
変形および回復は負荷の速度と時間によって決定される。
(3)可塑性
負荷によって生じた変形が、負荷を取り除いた後にも維持、または残っている性質。
②物理的特性
(1)force relaxation
変形の量を一定にした場合、組織の変形を維持する為に必要な応力が徐々に減少していく現象をいう。変形の速度が急であれば、変形に必要な力と次に生じる組織の弛緩は大きくなる。しかし、変形の速度が大きくなれば、組織は許容量を超え、損傷が生じる。
force relaxation
例)特定の部位をストレッチ→組織が伸張され変形-維持する→変形を維持したまま伸張に抗する力が徐々に減少していく。
例)特定の部位に急なストレッチ→変形に必要な応力は大きくなるが、その後に生じる組織の弛緩(緊張低下)も大きくなる。ストレッチの速度が大きければ組織は損傷してしまう。
(2)Creep現象
定量負荷に対する組織が変形する機能であり、コラーゲンは時間の経過とともに漸増的に変形ー伸張される。また、Creep率は温度が高いほど高いといわれる。
Creep現象
例)特定の部位にストレッチをかけ続ける→時間経過とともに変形ー伸張される→ストレッチ強度を上げる→更に変形ー伸張される→負荷に耐えきれない強度に達した場合→コラーゲンの断裂を伴う。
(3)履歴現象
コラーゲン繊維は、伸張負荷を除去した後、変形時とは異なった率でその形状を回復する。
履歴現象
例)特定の部位をストレッチ→ストレッチ解除→ゆっくりと形状回復する。筋腱複合体はおおよそ20〜30分程度で形状回復するといわれている。
不動による結合組織の変化
不動による結合組織の変化は、細胞レベル、基質とコラーゲン、組織レベルで生じるものに分けられます。また、冒頭で記したようにここでの不動は、『筋肉や周辺組織が正常な全可動域を通して動いていない。または、動かしきれていない状態。』を指します。つまり、『正常な全可動域を通して動いていなければ結合組織の変化が生じる。』ということになります。
健康を考慮して日常的に運動を取り入れているが、身体の調子や痛みが変わらないのは、実は、しっかり動かしきれていなかったのが原因の一つとして当てはまるかもしれません。
(1)細胞レベルでの変化
不動が9週間経過しても関節周囲の結合組織のコラーゲン含有量に有意な変化はみられなかったとの報告があります。これは、不動によって、コラーゲンの新陳代謝の増大が起こり、合成と分解の両者が増大する為であるといわれています。
(2)基質とコラーゲンの反応
不動による結合組織の基質での反応として、水分とグリコサミノグリカン(GAG:ムコ多糖)、特にヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸の減少が著しくみられるといわれています。
グリコサミノグリカン
グリコサミノグリカン(GAG:ムコ多糖)はヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などで構成されています。関節や関節内にある関節液(滑液)、皮膚などに分布しており、柔軟性、潤滑作用や緩衝作用を担っています。
この変化は、コラーゲン繊維間の潤滑作用と繊維間の距離を減少させる為、関節の硬化と深い関係があるといわれています。また、コラーゲン繊維間のGAGによる緩衝効果の低下は、隣接するコラーゲン繊維間の交叉部位での架橋形成の増加を促進します。時間経過とともに架橋はより強固となり成熟します。そして、変形(伸張)に対する抵抗性を増大させることになります。
関節と周囲組織の適切な運動は、コラーゲン繊維間のGAG緩衝効果を維持することに重要であるといえます。
理学療法ハンドブック[改訂第4版]第1巻 理学療法の基礎と評価 編集 細田多穂・柳沢 健
結果 コラーゲン 重量約10%減少
新陳代謝の増加
解体率の増加
合成率の増加
変形可能なコラーゲン架橋の増加グリコサミノグリカン(GAG:ムコ多糖) 総GAG20%減少
ヒアルロン酸40%減少
硫酸塩化GAG20%減少水分含量 3〜4%減少 不動による結合組織の生科学的変化
(3)組織の反応
不動が持続し時間経過とともにコラーゲンが形成され推積しますが、不動によって形成されるコラーゲン繊維は乱雑に配置され、結合組織内の癒着形成を招き、適切な関節の機能と組織の変形性(伸張性、柔軟性)が妨げられてしまいます。硬化した関節を動かそうとすると痛みが発生しやくすなっています。これは、関節包や腱、筋膜などに存在する痛覚受容器が興奮している為、痛みが助長されます。これがいわゆる関節痛とされています。
コラーゲン繊維の短縮により筋肉においても短縮してしまい、筋肉は、5〜7日間で短縮が生じるとされています。3週間以上の短縮位が持続すると筋肉と関節周囲の結合組織は、より強固な定形結合組織へ変化していき柔軟性の低下に繋がります。
このような変化が修正されないまま経過してしまうと運動障害がさらに不動を引き起こしてしまい、痛みが持続してしまう。ということになります。
不動解除後の運動による変化
不動を解除した後の運動による回復の速度は、不動によって組織が変化していく過程よりも早いといわれています。基質では、水分、GAGの増加がみられ、コラーゲン繊維の潤滑作用、繊維同士の距離は増加します。
組織レベルでは、運動によって新しいコラーゲン繊維が好ましい方向・配列に組織化されていき、関節可動域の増大や関節の機能が正常化される。そして、正常な運動機能と動作の回復や痛みの軽減・消失に繋がります。
まとめ
まとめ
- 不動によって身体が硬くなり、痛みを伴いやすくなる。さらに痛みの感受性の増大は末梢からの刺激の減弱によっても生じる。
- 身体が硬くなる要因として、筋細胞膜の損傷、血流障害、結合組織(コラーゲン繊維)の増加・乱雑化が関わっている。
- これらの要因を除去しなければ、日常的にストレッチや運動を実施していたとしても痛みや不調は改善されにくい。または、一時的に良くても再発してしまうリスクが高くなる。これは、コラーゲン繊維は変形後もとに戻ろうとする性質があるため。
- 改善する為には、適切なストレッチや運動を継続実施すること。適切な運動は身体の不調を呈してしまう過程よりも早く回復がみられる。
参考文献
理学療法ハンドブック[改訂第4版]第1巻 理学療法の基礎と評価 編集 細田多穂・柳沢 健
良かったら参考にして頂けますと幸いです。
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